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山下直久

静岡県浜松市

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再び「日本株バブル」は起きるか  2013/1/6

2013年01月06日 18:19

再び「日本株バブル」は起きるか

東洋経済オンライン東洋経済オンライン:記事一覧2013年1月5日(土)13時30分配信
再び「日本株バブル」は起きるか

再び「日本株バブル」は起きるか

東洋経済オンライン

■バブル時にもてはやされた「Qレシオ」「PSR」

東京湾の埋め立て地、江東区・豊洲。かつては工業用地が大半を占めたこの街は、再開発によって一変した。現在は、高層マンションやオフィスなどが軒を連ね、21世紀を象徴する東京の新交通システム「ゆりかもめ」が走る。

1980年代後半のバブル相場をリードしたのは「ウォーターフロント関連銘柄」。豊洲に広大な土地を保有する石川島播磨重工業(現IHI)を始め、東京ガス、日本鋼管(現JFEホールディングス)の「御三家」中心に、東京湾岸に不動産を持つ企業の「含み」が脚光を浴びた。証券マンは机に地図を広げ、「ここはどこの会社の土地なのか」などと関連株発掘にしのぎを削った。

当時もてはやされた指標の一つに「Qレシオ」がある。株価を1株当たり実質純資産で割ってはじき出す。分母に簿価ではなく、含み資産を考慮した時価を用いるのが株価純資産倍率(PBR)と異なる点だ。

ただ、土地や設備の時価を実際に調べるのは難しく、Qレシオは“詭弁”の理屈付けに使われた感がある。「含みの大きさを考慮すると、現在の株価は決して割高ではない」。当時のこうした主張は、その後のバブル崩壊に伴う株価や不動産価格下落とともに、すっかり影を潜めた。

相場上昇に勢いが付くと「怪しげな指標」(株式評論家)が持ち出され、割高と見られていた株価を正当化しようとの動きが出てくるものだ。

1990年代後半から2000年代初頭にかけての「ITバブル相場」でも、証券界の一部はこれと同じ轍を踏んだ。新たにお目見えしたのは「株価売上高倍率(PSR=株価÷1株当たり売上高)」と呼ばれる指標だった。

立ち上げてから間もない新興のIT系企業の場合、利益が計上できないケースも少なくない。赤字となれば、株価収益率(PER=株価÷1株利益)の算出は不可能になる。代わって、売り上げの多寡を基に、株価水準の妥当性を判断する物差しを広く普及させようとしたのだ。

投資理論の教科書に登場する「配当割引モデル」によると、成長株の株価は以下のように定義される。

株価=1株利益÷(金利+リスクプレミアム-成長率)

つまり、株価上昇をもたらすのは1株売上高でなく、同利益の増加だ。やがて、IT銘柄人気の離散とともにPSRの存在感も低下した。

今回も怪しげな指標が出てきたら注意が必要だ

■なぜ個人の株式保有意欲が高まらないのか

過去の例が示すように、なじみの薄い指標を取り上げて、個人投資家などに上昇期待を抱かせるようなことをすれば、かえって株式離れを招くだけだろう。

個人の金融資産は現在、約1500兆円に達する。しかし、日銀の資金循環統計によると、同資産に占める国内株式の比率は88年度に約11.3%まで上昇したが、11年度末では約4.1%にすぎない。

作新学院大学大学院の高橋元教授は株式保有の割合が高まらない理由について、「証券市場や業界に対する不信感があるのではないか」と推測する。「証券会社の敷居は高い、という心理的なバリアも依然として残っている」(高橋氏)。

個人と市場をつなぐ重要なパイプである投資信託も、十分に機能してるとは言い難い。「初心者の投信購入が多いことを踏まえると、保有が毎月分配型の商品に偏っているのは顧客側のニーズの高さよりもむしろ、販売する側が売りやすい物を売っているのが主因と考えざるをえない」(同)。

顧客に対して、証券会社の営業マンが手数料欲しさに、強く乗り換えを勧める例も後を絶たないと聞く。「適合性原則」をどれだけ重視しているのか、甚だ疑問だ。

「株式投資はギャンブル」。こうした見方がなかなか払拭できないのも事実だ。オンライン証券経由の「デイ・トレード」などがクローズアップされているためと見られる。むろん、投資スタイルは人それぞれだ。値上がり益(キャピタルゲイン)狙いの短期売買は否定されるものでない。デイ・トレーダーは証券市場への流動性供給の担い手でもある。

デイ・トレーダー以外の参加者を増やすには

だが、株式に対する偏った先入観を取り除くには、長期投資家の参入を促す工夫も必要だろう。上場企業が長期保有の株主になんらかの還元策を講じた際には、その費用を損金算入できるような仕組みを導入するのはどうだろうか。

多くの企業にとって、個人投資家対策は悩みの種だ。投資家向け広報(IR)担当者は「株価が値上がりしたらすぐに利益確定売りで処分してしまう」とぼやく。さまざまな相場観を持つ投資主体の市場参加は、価格発見機能の円滑化にもつながるはずだ。

証券アナリストの白石茂治氏は「米国で1980~90年代に実施されたさまざまな市場振興策を日本も見習うべき」と説く。

米国市場は65年から17年にわたって停滞。米経済誌「ビジネスウィーク」はこれを「株式の死」と報じた。長期間に及んだ低迷脱出のきっかけになった一因が、キャピタルゲイン減税や企業の株式分割積極化など官民挙げての取り組みが活発化したことだったという。「80年代に個人株主は一気に約2000万人増加した」(白石氏)。

世界に目を転じれば、リーマンショックや欧州債務危機などを機に、「アングロサクソン型資本主義」を見直そうとの流れが強まっているように見える。

欧州で導入機運の高まる「金融取引税」などはその一環だろう。そうした中で、株式市場の活性化をどう位置付けるのか。相場急騰で一般の関心が高まりつつある今こそ、議論を深める好機だ。

(著:松崎 泰弘)