英首相、ジレンマ 国内高まるEU脱退論 欧米諸国は阻止へ圧力
【ロンドン=内藤泰朗】英国のキャメロン首相が、国内で高まる欧州連合(EU)からの脱退論と、英国のEU脱退を阻止すべく圧力をかける欧米諸国との間で、ジレンマに立たされている。政府内からも、EUへの権限集中が緩和されない限り脱退も致し方ないとの見方が出始めた。首相が今月22日に行うとされるEUについての重要演説の内容に注目が集まっている。
英国におけるEU脱退論の高まりは、近年のユーロ危機や東欧圏からの移民の増大など、英国の国家主権を揺るがす事態が起きていることが背景にある。英国は銀行同盟の創設など最近の統合深化をめぐる協議でも一線を画し、孤立感を深めている。世論調査ではすでに、EU脱退派が過半数に達している。
キャメロン首相は「脱退は国益に反する」と訴えてきたが、与党・保守党の強硬派は、来年にもEU脱退の可否を問う国民投票を実施するよう要求。2015年の総選挙後に国民投票を実施すると語っていた首相への突き上げはさらに厳しくなっている。
一方、英国の最大の同盟国、米国のゴードン国務次官補(欧州問題)が訪英し9日、英メディアに「米国はEU内で英国が持つ発言力に期待する」と述べて脱退論を牽制(けんせい)。国民投票実施に懐疑的な立場を示した。
米国にとっては、「価値観を共有する特別なパートナー」である英国を通じてEUやユーロ圏への政治的な影響力を保持したいとの思惑がある。だが、英保守系議員らが「米国は英国の内政に干渉をすべきではない」と猛反発。逆に国民投票の実施を急ぐべきだとの意見も出てきている。
ただ、オズボーン英財務相はドイツ紙に対し、「英国はEUの加盟国であり続けたいが、そのためには、EUの改革が不可欠である」との考えを示した。英国側は司法や行政、労働政策などこれまでEU側に譲渡していた権限を取り戻さない限り、脱退論は収まらないとみる。
しかし、EU側やドイツなどは「英国側の要求をのめば、それに続こうという国々が現れ、EU崩壊というパンドラの箱を開けることになりかねない」との危機感から、譲歩する姿勢は一切見せていない。
英紙フィナンシャル・タイムズは10日付の社説で、1980年代、欧州単一市場や統合拡大を主導したサッチャー元首相のように「キャメロン首相もEUで主導的な立場をとるべきだ」と主張。経済界も脱退の経済的な打撃はかなり大きいとしており、首相は、難しいかじ取りを迫られている。
【用語解説】英国と欧州連合(EU)
英国は1961年、後にEUとなる欧州経済共同体(EEC)への加盟を申請するがフランスが反対。73年、欧州共同体(EC)に加盟した。2002年の単一通貨ユーロ流通開始後はユーロ圏に加わらず、域内の自由移動を認めるシェンゲン協定も一部を除き参加していない。11年末の欧州理事会ではユーロ危機対応のためのEU基本条約の改正に唯一、反対した。